矢板明夫。 門田隆将・ノンフィクション作家/矢板明夫・産経新聞台北支局長

習近平は失脚も? 中国でコロナ後に待つ共産党「大粛清」のゆくえ(矢板 明夫)

矢板明夫

矢板明夫氏の単行本『習近平 共産中国最弱の帝王』が刊行されたのは2012年3月だった。 それから8カ月後の同年11月、第18回党大会で習近平が現代中国の帝王、つまり共産党トップの総書記に選出された。 その直前の9月には、習の政敵だった薄熙来(はく・きらい)政治局員(当時)が失脚、同じ頃、野田佳彦民主党政権(同)が尖閣諸島の国有化を宣言し、それ以降、日中関係は一段と緊張、悪化の一途をたどった。 こうした単行本発刊以降の2年半に起こった大きな動きをどう文庫版に反映させるか。 しかし著者はほとんど事実の加筆にとどめた。 それは単行本への自信の表れだったと思われる。 矢板明夫氏は、2007年以来、産経新聞中国総局(北京)特派員として中国報道の第一線で活動し、事象の深層をえぐる幾多(いくた)のスクープを放ってきたことで知られる。 とりわけ中国政治の内情報道には定評があり、単行本では、発足前夜の習近平政権の内実に迫ると同時に、中国に対する見識を披瀝(ひれき)し、第7回樫山純三賞を授与された。 その文庫版である本書は、タイトルを改め、習政権の中台統一戦略について新たな章を設けて、詳述した。 台湾問題もまた矢板氏の得意分野の一つである。 本書の内容に触れる前に、矢板氏のユニークなバックグラウンドを紹介する。 矢板氏はいわゆる中国残留孤児2世である。 1936年、郷里の栃木県から北京に渡り、電気関連工場を経営していた祖父は、戦争末期に日本軍に徴用されシベリア抑留中に死亡、後には幼い1男1女が残された。 そのうち長男(42年生まれ)は祖父の経営していた工場の元従業員に引き取られ、天津市に移住、中国人として育てられ、長じて中国人女性と結婚、男児2人をもうけた。 日中が国交を回復した72年に次男として誕生したのが矢板氏である。 矢板氏の両親の前半生は貧困、抑圧、差別といった毛沢東時代の苦難を象徴するようなものだった。 写真技師だった父親は、出自を問題にされて職を失い、銭湯で客の垢(あか)をすり落とす職人になって家族を支えたという。 父親は文革終結後、名誉回復、天津市の政治協商会議代表に選ばれた。 一家は激動の現代史を何とか生き抜いたのだった。 矢板氏が両親および3歳違いの兄とともに、日本に引き揚げてきたのは88年、天津の中学3年生、15歳の時だった。 千葉県下の公立中学に編入になったが、それまで触れたこともなかった日本語の修得に苦労したのは想像に難くない。 その後、高校を経て慶応大学文学部に進み、97年に卒業すると、当時難関といわれた松下政経塾に入った(第18期生)。 米英日3カ国に留学経験を持つ台湾の名門出身の夫人は政経塾の同期生である。 98年には中国政府のシンクタンク、中国社会科学院日本研究所特別研究員として中国に派遣され、2002年に社会科学院大学院で博士課程を修了した。 留学期を含め政経塾時代に、日中関係や中国問題に関する数多くの論文を発表している。 帰国後、産経新聞社に入社したのは、古森義久氏(産経初代中国総局長、現ワシントン駐在)の影響が大きかったという。 北京時代、矢板氏は、中国語の翻訳などで古森氏を手伝ううち、記者の仕事に興味を持ったと聞く。 産経入社後、地方勤務を経て05年、本社外信部に配属された。 私は2000年に古森氏の後任として2代目の総局長に就いたが、07年、産経新聞の長期連載企画のサポート役として北京に派遣されてきたのが矢板氏だった。 それ以来、私の退職(11年)まで、一緒に仕事をする機会が度々あり、矢板氏の豊富な知識に裏打ちされた取材力に助けられたものだ。

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【正論7月号】中国発の詳細な金正恩「死亡情報」が物語るもの 産経新聞台北支局長 矢板明夫(1/3ページ)

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2019. 26 44分 4月26日金曜夜10時、第258回のゲストは、産経新聞外信部次長の矢板明夫さんです。 矢板さんは「米中貿易摩擦により中国国内の物価が上昇するとともに、中国共産党長老の間では習近平国家主席に対する不満が強まっている」としています。 追いつめられた習近平氏は、どのような戦略を持っているのでしょうか。 4月17日には、尖閣諸島沖で中国・海警局の船4隻が日本の領海に侵入しました。 4月5日、8日にも中国船4隻が日本領海に侵入しているため、4月に入って3度目の領海侵入となります。 矢板さんは、習氏は自身に対する個人崇拝を追求しており、軍部では2050年までに尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる戦争を含む6つの戦争が想定されているといいます。 その内容を詳しく伺います。 また、米中の交渉では知的財産権問題が強調されていますが、中国国内での知的財産権に対する認識はどのようなものなのでしょうか。 自身が撮影した写真が無断で香港の有力紙に使用された体験を持つ矢板さんに、米中交渉の行方について、それに伴う日中関係についてお伺いします。 矢板明夫 産経新聞外信部次長 1972年中国天津市生まれ。 15歳のときに残留孤児2世として日本に移り住む。 1997年慶応義塾大学文学部卒業。 同年松下政経塾に入塾(第18期)。 研究テーマはアジア外交。 その後、中国社会科学院日本研究所特別研究員、南開大学非常勤講師などを経て、2002年中国社会科学院大学院博士課程修了後、産経新聞入社。 さいたま総局などを経て、07年から産経新聞中国総局(北京)特派員。 17年から現職。 著書に『習近平の悲劇』(産経新聞出版)、『習近平 なぜ暴走するのか』(文春文庫)、『私たちは中国が世界で一番幸せな国だと思っていた』(石平氏との共著、ビジネス社)などがある。 26時点の情報です.

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横行する「日本人スパイ狩り」習近平の「人質外交」 と北大教授帰国の真相|矢板明夫

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数年前、中国の警察に一時拘束された北京の民主化活動家から聞いた話だ。 深夜、自宅から警察施設に連れ出され、取り調べ室らしき部屋に入ると、壁にスクリーンがあり、そこには自分の携帯電話に入っているメッセージアプリケーション「微信」(WeChat)の画面が映し出されていた。 その約半年前に、複数の友人らと交わしたやり取りが大きく表示され、「政府批判」にあたる部分は赤線でチェックされていた。 「これだけの証拠があれば、あなたを今すぐでも国家転覆罪で逮捕できる」と警察官に脅迫された。 携帯電話のアプリを通じて自分の言動が監視されていたことをはじめて知ったこの活動家は、とても恐ろしく感じたという。 微信は中国企業が開発、運営しているアプリなので、そこでやり取りされる情報を中国の治安当局に把握されることは、当然と言えば当然だ。 今、中国とビジネスを展開する日本人の企業関係者の携帯電話には、ほとんどが「微信」をダウンロードしている。 「使いやすい」と絶賛する日本人も少なくない。 彼らは自分の個人情報が中国当局に筒抜けになり、場合によって企業秘密が盗まれるかもしれないことをあまり意識していないようだ。 微信よりもっと厄介だと言われるのが、同じく中国企業が開発したティックトック(TikTok)というショートムービープラットフォームアプリだ。 誰でも音楽に合わせて簡単に魅力的な動画をつくることができるため、アジアを中心とした若い世代から人気を集めている。 愛用者の年齢は低く、日本では中高生を中心に使っている人が多い。 台湾のIT専門家によれば、ティックトックをダウンロードすれば、携帯電話の中のデータが盗まれる可能性があり、使用者の現在の居場所も特定できる。 ここ数年、ものすごい勢いで世界中に普及し、ユーザーはすでに15億人を超えた。 「中国がティックトックを利用して、さまざまなデータを集めているはずだ」と言った。 危険なのは中国の製品だけではない。 日本の企業がオンライン会議などで愛用している米ビデオ会議サービス「ズーム(Zoom)」も、中国の治安当局の影響下にあることが明らかになった。 6月4日。 米国在住の民主化活動家らが、ズームを使って、31年前の1989年のこの日に起きた民主化運動が弾圧された天安門事件の犠牲者を追悼するオンライン集会を開き、米国や欧州、香港、中国国内の活動家ら数百人が参加した。 しかし、この会議は中断してしまった。 世界各地在住の元天安門事件の学生リーダーや、人権派弁護士らのズームのアカウントが急に使えなくなったのだ。 後にズームの広報担当者はメディアの取材に対し「中国当局から圧力を受けて通信サービスを中断した」と認めた。 「会議は中国の国内法に違反した可能性があるからだ」というのが理由で、「当社は事業を行っている国や地域の法律に従わなければならない」と釈明したが、中国の言論弾圧に加担したことで、ズーム社に対し世界中から批判が殺到した。 また、今回の事件で明らかになったのは、中国の治安当局はズーム社のオンライン会議の内容を監視しているということだ。 同社を利用している世界中の企業の内部会議を中国当局が、その気になればすべて把握できるかもしれない。 「中国に進出していないソーシャルメディアを利用すればよい」といった声も聞かれるが、実はそれも安心できない。 米ソーシャルメディア大手のツイッター社は6月中旬、言論操作したとして中国共産党に関連しているとされる17万余りのアカウントを削除したと発表した。 17万余りのアカウントのうち、約2万が中国政府の政策などを称賛する書き込みを投稿し、残る約15万のアカウントは、投稿を拡散させたという。 実はツイッター社は、昨年夏も同じ理由で約20万アカウントのうち936のアカウントを削除していた。 今回の17万アカウントは、その後に新たに登録したものだ。 グーグルやフェイスブックにも同じように、中国による言論操作アカウントが数多く登録されていることは言うまでもない。 私たちが日ごろ、インターネットで接する情報は、こうした中国側の「人海戦術」によってつくられたフェイクニュースの可能性がある。 欧米や台湾では最近、インターネットから中国当局による浸透を一掃する「浄化作戦」を開始し、中国の影響下にあるソフトやアプリの使用禁止などの対策を取り始めたが、日本政府と社会はまだ問題の深刻さを全く認識していないのが実態だ。

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